いびきがうるさくて殺意がわく夜に|その言葉が出てくる理由

「いびき うるさい 殺意」。その言葉で検索した指を、私は責めません。夜中に浮かぶ語の温度は、昼のあなたの人格とは別のものです。
この記事では、なぜその一語まで届いてしまうのかという構造だけを書きます。書いているのは静山、いびきをかいて言われてきた側の人間です。今夜の音をしのぐ手は、別の記事に置いてあります。
この記事の目次
「殺意がわく」と打ち込んだ指を、私は責めません

検索窓に「殺意」と打ち込むまでに、どれだけの夜があったのかは私には分かりません。ただ、その二文字を選んだ人の多くが、打ち込んだ直後に自分で少し怖くなっていることは想像がつきます。こんなことを思う自分は、どこかおかしくなったのではないか。そう思って、検索結果を開く前に一度手を止めた人もいるはずです。
先に結論を書きます。その言葉が出てくるのは、あなたの性格が壊れたからではありません。眠りを毎晩壊されている人間の頭に、その語が浮かぶのは、構造として順当なことです。理由はこのあと分解して書きます。
もうひとつ先に置いておきます。言葉と行為は別のものです。頭に浮かんだ語と、実際に手を出すことのあいだには、はっきりした断絶があります。むしろ言葉になって外へ出たものは、その時点で一度熱を落としています。行き場を失って内側に溜まり続けるほうが重い、というのが私の実感です。だから、その語を打ち込んだこと自体を、なかったことにしなくていいと思っています。
断っておきますが、私は医者ではありませんし、心の専門家でもありません。診断の話も治療の話もしません。ここに書けるのは、いびきをかいて何度も言われてきた側の人間が、その言葉を向けられて何を考えたかということと、私が調べた範囲での構造だけです。
それでもこの記事を書いているのは、「殺意がわく」で検索した人が最初に読むものが、たいてい説教だからです。そんなことを思ってはいけません、相手も好きでかいているわけではありません、まずは冷静に話し合いましょう。全部正しいのですが、正しさは今夜の役に立ちません。正しい言葉を先に置かれると、人は自分の温度のほうを引っ込めます。引っ込めた分は消えず、翌週にもっと硬い形で戻ってきます。
この記事では、あなたの言葉を先に認めます。そのうえで、なぜその語まで届いてしまうのかを説明します。手当ての話はそのあとです。順番を逆にすると、たいてい何も残りません。
なぜ「うるさい」ではなく「殺意」になるのか

ここがこの記事の本題です。同じ「音がうるさい」でも、工事の音や車の走行音で殺意という語まで行く人は多くありません。いびきの場合だけ、なぜあの語まで届くのか。私が調べた範囲と、言われる側として見てきたことから、成分を四つに分けます。
1. 眠れないこと自体が、ブレーキを外す
睡眠が足りない状態では、感情にブレーキをかける働きが落ちて、不快な刺激に対する反応のほうが大きくなるとされています。同じ音を同じ大きさで受けても、寝不足の頭はより大きく感じ、しかも怒りを止める側の力が弱っている。音が大きくなったのではなく、あなたの側の防具が削られているという言い方のほうが近いと思います。
厄介なのは、その防具を削っている当の原因が、隣で鳴り続けている点です。ふつうの怒りには回復の時間がありますが、この件では回復の時間そのものが奪われます。冷める前に次の夜が来る。これを月単位、年単位で続ければ、頭に浮かぶ語彙が過激なほうへ寄っていくのは自然な流れです。逆に言えば、あなたの語彙が過激になったのではなく、削られた分が語彙に出ているだけです。
2. 音の性質が、慣れを許さない
いびきは一定の音ではありません。静かになった、と思った直後にガッと鳴る。この不規則さは、脳が無視することを覚えにくい形をしています。工場の機械音や高速道路の音には慣れたという話をよく聞くのに、いびきに慣れたという話をほとんど聞かないのは、そこに理由があると思っています。
さらに、いびきは眠りに落ちかけた瞬間を狙ったように邪魔をします。入眠の直前は、外の音にいちばん敏感な時間帯です。あと少しで落ちる、というところで引き戻される。この「あと少し」を一晩に何度も壊されるのが、いびきの被害の中身です。合計の睡眠時間だけを見ても、この消耗は数字に出ません。人に説明しても伝わりにくいのは、そのためでもあります。
3. 止める手段が、こちらに一つもない
これが決定的だと考えています。怒りが暴力的な語に化けるのは、多くの場合、出口がないときです。相手は眠っています。話しても届きません。肩を押せば起きて不機嫌になり、こちらが謝る側に回ります。改善を頼めば、聞いていないか、聞いても数日で終わる。止めたいのに、止めるスイッチが自分の側に一つもない。この無力感が、怒りを行き止まりに追い込みます。
だから私は、「殺意」という語を怒りの最上級だとは考えていません。あれは無力感の別名です。相手を消したいのではなく、この状況を終わらせるボタンがどこにも見当たらない、ということを言い表せる語が、それ以外に見つからなかった。検索窓にあの語を打った人の多くは、たぶんそちらだと思います。
4. 誰にも本気にされない
そのうえで、この被害は外に持ち出しても軽く扱われます。いびきの話は、ほぼ笑い話として処理されます。深刻な顔で話しても、聞くほうは面白い話として受け取る準備をしている。何度かそれをやると、人は話すのをやめます。
行き場のない怒りと、共有できない状態が重なると、言葉は内側で濃くなります。外に出す機会がない感情は、薄まらずに煮詰まる。「殺意」まで濃くなるのは、あなたが特別に激しい人だからではなく、薄める場所が一つもなかったからだというのが、私の見立てです。
四つ並べてみると、どれもあなたの人格の話ではありません。睡眠、音の形、手段のなさ、孤立。全部、置かれている条件の話です。条件が変わらないかぎり、気の持ちようで語を消しても、また同じところに戻ってきます。
妻は「殺意がわく」を、冗談の形でしか言えませんでした
ここで、言われた側の内側を一つだけ書いておきます。
私のケース:妻が「殺意がわく」と冗談で言った夜
何年か前、テレビを見ながら妻が笑って言いました。昨日のいびき、殺意がわいたわ、と。語尾は完全に冗談の形でした。私も笑って、ごめんごめん、と返しました。その場はそれで終わりました。
ひっかかったのは、数日あとに洗面所で歯を磨いているときでした。あれは冗談だったのだろうか、と急に思いました。妻は、あの言葉を冗談の皮に包まなければ、私に渡せなかったのではないか。本気の顔で言えば私が黙って不機嫌になることを、妻はもう知っていたはずです。
私は、笑って受け取ったことで、内容を受け取らずに済ませていました。冗談として渡されたものは、冗談として返せば処理が終わります。今から考えると、あれは処理ではなく無視です。妻が私に出せた最大の温度が、あの一言でした。それを私は、いちばん軽い受け皿で受けていました。
冗談の形をとるのには理由があります。本気の温度でぶつければ、その瞬間から、こちらが加害者の側に見えるからです。眠れないと訴えているだけなのに、大げさだ、きつい言い方をする人だ、という評価がついてしまう。だから多くの人が、笑いの皮をかぶせるか、何も言わずに検索窓のほうへ持っていきます。
ここで、言われる側として正直に書いておきます。冗談で言われた言葉は、たしかに届きませんでした。ただ、本気で言われたら届いたかというと、たぶん届かなかった。私はその場で身構えて、話をそらしていたはずです。言い方の問題ではなかったということです。だから、うまく伝えられなかった自分を責める必要はありません。
言われる側の内心がどうなっているのか、何度言っても動かないときに向こうで何が起きているのかは、この記事では扱いません。夫のいびきに耐えられない妻へのほうに、言われる側だった私が内側から書いたものを置いてあります。ここで書きたいのは、あなたの中に出てきた言葉のほうです。
「そう思ってはいけない」が、いちばん危ない
その語を打ち込んだあと、自分でこう処理する人が多いです。私は冷たい人間だ、こんなことを思うなんて妻失格だ、夫失格だ、母親失格だ。ここで自分に説教を始めると、怒りは消えないまま、自己嫌悪という別の重りが上に乗るだけです。重りが増えた分、翌朝の機嫌はさらに悪くなり、家の中の空気がもう一段悪くなります。
感情は、否定しても減りません。減るのは、認めて名前をつけたときです。順番としては、まず「私は今、隣で眠っている人間に対して殺意という語が浮かぶくらい消耗している」と、そのまま認めるのが先です。評価はそのあとでいい。というより、認めた時点で評価する必要がなくなることのほうが多いです。
もう一つ言っておくと、その語が浮かんだからといって、あなたが相手を嫌いになったわけでもありません。私の妻は、あの一言を言った夜も、翌朝ふつうに味噌汁を作っていました。二つは同時に成立します。同時に成立するものを、どちらかに決めようとするから苦しくなります。
憎しみを、安全な形で外に出す手順

ここからは手順です。相手を変える手順ではありません。あなたの中に溜まった言葉を、外に出して薄めるための手順です。私が自分のいびきの記録をつけるときに使っている考え方を、この場面に置き換えたものだと思ってください。
手順:夜中に殺意が浮かんだときの3分
- まず寝室から出ます。トイレでも廊下でも構いません。音の届かない場所へ、体のほうを物理的に移します。同じ空気の中で気持ちだけを鎮めようとしても、鳴っているかぎり上書きされ続けます。
- 水を一口飲みます。喉が渇いているからではなく、怒りの姿勢から体を降ろすための動作です。歯を食いしばったまま寝床に戻ると、その姿勢のまま朝まで持ち越します。
- 浮かんだ言葉を、そのままの温度で1行だけ書きます。スマホのメモで構いません。「殺意がわいた」でいいです。やわらかい言葉に翻訳しないでください。翻訳した時点で、外に出す意味がほとんどなくなります。
- その下に、いま何時かと、今夜すでに何回起きたかだけを足します。気持ちの説明は書きません。時刻と回数の二つだけです。
- 判断は朝まで持ち越すと決めて、戻ります。別室にする、明日こそ話す、もう限界だ。どれも深夜2時に決めないでください。
回数の目安は、浮かんだ夜だけです。毎晩の日課にしないでください。日課にすると、書くために怒りを探すようになります。それは薄めるのとは逆の作業です。
注意が二つあります。ひとつ、このメモは相手に見せるためのものではありません。突きつける材料として作った瞬間に、書ける温度が下がって、装置として働かなくなります。ふたつ、書いたものを翌朝に読み返さない日があっても構いません。出すことが目的で、読むことは目的ではないからです。
1週間たったら、中身ではなく量を見ます
私が自分のいびきを測るようになっていちばん助かったのは、単日で一喜一憂しなくなったことでした。初回に142点という数字が出たときも、その一晩だけでは何も分かりません。何日か並べて、はじめて傾向のほうが見えます。
同じ見方が、あなたのメモにも使えます。1週間ためたら、行数だけ数えてください。中身は読まなくて構いません。7日のうち何日、夜中に言葉が浮かんだか。その数が、あなたの消耗のいちばん正直な目盛りになります。
これが効くのは、人に話すときに主語が変わるからです。「あなたのいびきがうるさい」ではなく、「先週は7日のうち5日、夜中に起きていた」と言える。前者は相手への評価で、後者はこちらに起きた事実です。評価には反論できますが、事実にはできません。相手が身構える理由も、そのぶん減ります。
今夜の音そのものを小さくする手や、相手に切り出すときの言い方は、この記事の担当ではありません。いびきがうるさくて寝れない夜の対処法に、眠れない側が今夜できることをまとめてあります。私自身の記録の付け方は記録カテゴリに置いています。
\ 責める形にしないために /
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その怒りの下に、見逃してはいけないものが隠れていることがあります

最後に、これだけは順番を先にしてほしい話をします。怒りの対象になっている音が、体のサインであることがあります。
次のどれかに心当たりがあるなら、家での工夫より先に、呼吸器内科・耳鼻咽喉科・睡眠外来への受診をすすめてください。睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性があり、これは医師の診断と治療が要る状態だとされています。
- いびきの途中で呼吸が止まっているように見える時間がある
- 止まったあと、あえぐような大きな音で呼吸が戻る
- しっかり寝ているはずなのに日中の眠気が強い。会議中や運転中にうとうとする
- 起床時の頭痛が続いている
- 高血圧や不整脈を指摘されている
上の二つは、本人には観測できません。眠っているからです。見ているのは、眠れずに天井を見ているあなただけです。何科へ行くのか、どんな検査になるのかは受診の記事に整理しました。
ここで、感情の側の話に戻します。呼吸が止まっているのを見て、心配より先に「このまま止まればいい」と思ってしまった、という声があります。そして直後に自分を責める。これも、前の章で書いた構造の中で起きることです。眠っていない頭は、心配と怒りを同時には持てません。持てないだけで、あなたの中から心配が消えたわけではないと思います。現に、止まっているのを見て怖いと感じたから、その一瞬が記憶に残っているはずです。

言葉を消しても、夜は一晩も減りません
この記事で書きたかったことは一つだけです。あなたの中に出てきた言葉を、なかったことにしないでほしい。あの語が浮かぶまで削られたという事実のほうが、言葉の乱暴さよりずっと重要な情報です。
言葉を否定して自分を静かにさせても、削られている状況は一晩も減りません。逆に、言葉をそのまま認めてしまうと、不思議と次の一手が具体的になります。今夜の音をどうしのぐか、相手にどう切り出すか、受診を勧めるかどうか。全部、殺意という語を抱えたままでも決められることです。むしろ、抱えたままのほうが決められます。感情を片づけてから動こうとすると、片づく日が来ないからです。
私は、その語を妻から冗談の形で渡された側です。渡された当時は何もしませんでした。私が動いたのは、自分の音を自分の耳で聞いてからです。だから、渡す側にできることには限りがある、とも思っています。相手を動かせなかった夜は、あなたの伝え方の失敗ではありません。あなたが壊れないことのほうが先です。
今夜すぐにできることは、たぶん一つだけです。浮かんだ言葉を1行だけ外に出して、判断を朝まで持ち越す。それだけで、明日の自分に渡せるものが一つ増えます。
