静脈麻酔でいびきをかくのは恥ずかしい?胃カメラ鎮静の話

検査が終わって我に返った瞬間、看護師さんの顔をうかがってしまった。その気まずさは、あなただけのものではありません。
結論から言います。鎮静や静脈麻酔でいびきが出るのは、薬で筋肉がゆるんだ結果として起きる自然な反応です。しかもその呼吸は、あなたが眠っているあいだ器械で見られていたとされています。ただし、自分の気道からのサインではあります。
この記事の目次
鎮静でいびきが出るのは、体の仕組みどおり
まず言葉の整理から。静脈麻酔とは、点滴や注射で薬を入れて、自発呼吸を残したまま意識のレベルを下げる方法だとされています。気管に管を入れて呼吸を機械にあずける全身麻酔とは、別のものです。胃カメラや大腸カメラ、日帰りの小さな手術でよく使われるのは、この鎮静のほうです。
鎮静には深さの幅があります。呼びかければ返事ができる浅いところから、ゆすっても反応が鈍い深いところまで、ひとつながりになっているとされています。どこに置かれるかは薬の量や体質で変わりますが、眠りに近づくほど全身の力は抜けていきます。つまりあなたは検査のあいだ、眠りにかなり近い状態に置かれていたことになります。ここから先は、夜のいびきとまったく同じ話です。
- 薬で全身の筋肉がゆるむ
- 喉を支えている筋肉も、当然ゆるむ
- 仰向けなので、ゆるんだ舌の根元が重力で喉のほうへ落ちる
- 空気の通り道が狭くなる
- 狭いところを空気が通ると、粘膜が震えて音が出る
この順番のどこにも、だらしなさや気のゆるみは出てきません。薬で筋肉をゆるめてもらった結果として、いびきが出る条件が全部そろっただけです。舌が落ちて気道が狭くなる仕組みそのものは舌根沈下の記事にまとめてあります。

覚えておいてほしいのは順番です。あなたがいびきをかいたのではなく、いびきが出る状態に置かれた。主語は薬のほうにあります。ここを取り違えていると、自分の不注意で恥をかいたという話に化けてしまいます。
もうひとつ、先に足しておきます。いびきという音が鳴るには、空気が動いていることが前提です。通り道が完全に塞がってしまえば、震えるものがないので音は消えます。あなたが恥ずかしいと思っている音は、狭いなりに空気が通っていた証拠でもある。この一点が、次の節の話につながります。
鎮静中、あなたの呼吸は器械で見られている
この記事でいちばん伝えたいのはここです。先に自分の立場を書いておきます。私は医者ではありません。いびきをかく側の当事者で、診断や治療の話はしません。以下は、医療機関などが一般向けに公開している説明を読んで私が理解した範囲の話で、当日の判断はすべて現場の医療者のものです。
そのうえで。私が調べた範囲では、鎮静のあいだは呼吸と酸素の状態を続けて見ておくのが基本とされています。言い換えると、あの部屋であなたの音を聞いていた人たちは、音の大きさを笑っていたのではなく、空気がちゃんと動いているかを見る仕事をしていた、ということです。音は判定材料であって、人格の評価ではありません。
何が付いていて、何が見られているのか
「日常的なことですよ」と言葉で言われても、恥は薄まりません。効いたのは、何が付いていて何が見られているかを具体的に知ったときでした。私が調べた範囲では、鎮静下の検査で使われるのは次のようなものです。
- パルスオキシメーター:指先に挟むクリップ型の器械。血液中の酸素の飽和度(SpO2)と脈拍を、検査のあいだずっと画面に出し続けます。検査後に指先へ跡が残っていたなら、これです
- 血圧計・心電図:状態や施設によって、一定の間隔で、あるいは続けて記録されるとされています
- スタッフの目と耳:胸やお腹の動き、そして呼吸の音そのもの。器械の数字が動く前に気づけるのはこちらだと説明されています
そして、数字が下がったときの手当てにも順番があるとされています。一般向けの説明でよく挙がっているのは、酸素を追加で流す、顎を下から持ち上げて気道を開く(下顎挙上)、口や鼻から短い管を入れて通り道を確保する、鎮静剤の量を減らす、といった対応です。どれを選ぶかは医療者の判断なので、私が立ち入る話ではありません。
ここで押さえておきたいのは、いびきという音が、その手当ての引き金の側に置かれているという点です。恥ずかしいと感じていたあの音は、部屋のなかでは「気道がやや狭くなっている」という情報として読まれ、必要なら顎の角度を少し変える、酸素を足すといった対応につながっていた可能性があります。あなたが眠っているあいだ、誰かが黙ってそれをやってくれていたかもしれない、ということです。
逆に、より注意して見られているのは、音が消える瞬間のほうだとされています。ここが少しややこしいところで、鎮静中の静けさには二種類あります。ひとつは、呼吸が落ち着いて空気がすっと通っている静けさ。もうひとつは、通り道が塞がって、震えるものがなくなった静けさです。音だけを聞いていると、この二つはよく似て聞こえます。
だから見る側は、音以外のところを一緒に見ています。胸やお腹は動いているのに音も空気の出入りも無いなら、体は吸おうとしているのに通っていない、という読み方になります。指先の数字は、そこから少し遅れて動くとされています。血液の中の酸素が入れ替わるまでに間があるぶん、画面の数値は実際の呼吸より後から下がってくる。だから数字が鳴るのを待たずに、胸の動きと音の有無で先に手を打つ、と説明されています。
そして、顎の角度を変えるといった対応で通り道が開くと、いびきの音がまた鳴り出すことがあります。無音から音が戻るのは、あの部屋のなかでは良い知らせのほうです。音が止まり、胸の動きも止まり、指先の数字がじりじり下がっていく。介入が要るのはそちらです。鳴っている音は、少なくとも空気が動いている側に入ります。恥ずかしかったその音は、部屋のなかでは悪い知らせではありませんでした。
もうひとつだけ。あの部屋のスタッフにとって、あなたの鎮静はその日の何件目かです。同じ音を何十件、何百件と聞いてきた人たちに、あなたの音だけを覚えておく理由がありません。理屈としては当たり前なのに、これを飲み込むのに私はずいぶん時間がかかりました。
私のケース:胃カメラの鎮静で、終わったあと看護師さんの反応が気になった
40代に入ってすぐ、胃カメラを受けました。鎮静剤を入れてもらって、気づいたら別の部屋のベッドで寝ていました。何をされたのかも、どのくらい時間がかかったのかも覚えていません。
覚えているのは、目が覚めたあとの数分だけです。血圧を測りに来てくれた看護師さんの顔を、私はやたらと見ていました。何か言われるのを待っていたのだと思います。いびき、うるさかったですよね、と自分から聞こうとして、結局聞けませんでした。相手はいつもどおりの事務的な口調で、次の注意事項を説明して去っていきました。
当時の私は、それを「気を使ってくれたんだな」と解釈しました。今なら分かります。気を使われたのではなく、単に話題にする価値のない出来事だっただけです。もっと言えば、その日いちばん恥ずかしがっていたのは、部屋の中で私ひとりでした。
\恥ずかしいのは、音ではなく無防備さのほう/
眠っているあいだの自分は、どうやってもコントロールできません。だから恥ずかしい。裏を返せば、起きているあいだにやれることを持っていると、この種の恥はかなり軽くなります。気道力メソッドは、そのやれることのほうを26個まとめた自宅ケアのプログラムです。
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ただし、普段の気道が狭いサインではある
ここからは、承認だけで終わらせないための話です。
鎮静でいびきが出やすいということは、筋肉がゆるんだときに気道が狭くなりやすい体だということでもあります。そしてそれは、あなたが毎晩やっていることとまったく同じ現象です。恥じる必要はないけれど、無視する必要もない。鎮静中のいびきは、普段の気道の縮図として読むことができます。
患者が恥ずかしがるより先に、麻酔の側が気にしている
私が調べた範囲では、医療者がいびきを気にするのは、音がうるさいからではありません。眠ると気道が塞がりやすい人は、鎮静や麻酔でも同じことが起きやすく、酸素の下がり方が大きくなったり、気道を確保するのに手数がかかったりすることがあるからだとされています。マスクで空気を送りにくい、深く眠らせると呼吸が浅くなりやすい。そういう見立てを、事前に持っておきたいわけです。
だから麻酔の問診票には、睡眠時無呼吸を拾うための質問が並んでいます。私が調べた範囲では、麻酔前の問診票には、大きないびき、呼吸が止まっていたという指摘、日中の眠気、高血圧といった項目が並んでいることが多いようです。項目の中身と、朝と昼に出るサインの読み方は眠りが浅いときのサインのほうに詳しく書いたので、そちらを見てください。

つまり問診票のあの欄は、あなたのだらしなさを調べる欄ではありません。当日、どのくらいの深さで眠らせるか、酸素や気道確保の準備をどこまで厚くしておくかを決めるための欄です。ここが分かると、次の節の「伝える」がずいぶん楽になります。恥の告白を求められているわけではなかった、という話だからです。
そのうえで、家族から「息が止まっていた」と言われたことがある人。いびきが途中で無音になり、そのあと大きく吸い直す音があると指摘されているなら、鎮静の日だけの話として片づけず、自宅でのケアより先に医療機関で相談してください。日中の強い眠気が重なっているなら、なおさらです。私自身は録音にその無音が入っていなかったので自宅ケアを選んでいますが、そこは分かれ道になります。どこへ行けばいいのかはいびきは何科かの記事にまとめました。
検査の前に伝えておきたい3つのこと
恥ずかしさは、人を黙る方向に押します。ここが厄介なところで、黙って得をする人は誰もいません。事前に伝えておくと、鎮静の量を調整したり、酸素や気道確保の準備を厚めにしたりといった対応ができる、と説明している医療機関があります。つまり申告は、恥の告白ではなく安全側の情報提供です。

1. いびきを指摘されたことがあるか
診断名は要りません。家族やパートナーに言われたことがある、という事実だけで十分です。頻度も添えられると親切です。毎晩なのか、飲んだ日だけなのか。「うるさいと言われる程度です」でも構いません。専門用語に翻訳しようとしなくていい欄です。
2. 日中の眠気があるか
会議中や運転中に落ちそうになる、休日は昼まで眠れてしまう。こうした眠気は、本人が年齢のせいにして飲み込みやすい項目です。だからこそ、聞かれたときは正直に出しておく価値があります。ここは自己申告でしか拾えないので、黙られるといちばん困る欄でもあります。
3. 睡眠時無呼吸の診断歴や治療歴
過去に検査を受けた、CPAPを使っている、歯科でマウスピースを作った。このあたりは、そのまま伝えてください。医療機関の案内で見かけたのは、診断がついている場合は検査結果のコピーを持っていく、治療器具を持参する、といった内容です。入院をともなう検査なら、普段使っている装置を持っていくかどうかも確認しておくと話が早くなります。
もうひとつ、恥とは関係ない実務として、睡眠薬や安定剤を常用している人、お酒をよく飲む人は鎮静の効き方が変わる傾向があるとされています。これも問診で聞かれたら隠さないほうがいい情報です。お酒といびきの記事で書いたとおり、アルコールは喉のゆるみ方に直接効いてきます。
言いにくければ、この一文をそのまま使ってください。恥ずかしさを乗り越える必要はなく、事務連絡として渡してしまえばいいだけです。渡す相手は、問診票を見る人でも、当日の看護師さんでも構いません。二度言っても誰も困りません。この短く事実だけを渡す形は立場が逆のときにも効くので、自分が相部屋で隣の音に当たってしまった側の言い方は言えない相手のいびきにどう構えるかにまとめてあります。
不安を減らすのは当日ではなく、普段の気道
検査の日にできることは、正直あまりありません。当日だけ喉を広げる方法はないからです。逆に言えば、こういう場面での不安を減らす手は、前もってしか打てません。
とはいえ、検査の予定がもう決まっている人にとっては、その日までに何をしておけるかのほうが知りたいはずです。ここでは、鎮静を受ける場面でしか意味を持たない準備を3つ、手順と回数まで書いておきます。喉そのものを開く体操や舌を鍛える動きは、この記事の役目ではないので手順には立ち入りません。

検査前日から当日朝までにやっておく3手順
- 前日の夜は酒を入れない(前日1回だけ/その晩は飲まない)。前の節に書いたとおり、アルコールは喉のゆるみ方に直接効いてきます。鎮静剤との重なり方も変わってくるので、前の晩を素面で通すだけで、当日の条件はひとつ揃います。注意:飲食の制限は施設の指示が先です。予約時にもらった案内と違うことは自分で決めないでください。それから、睡眠薬や安定剤を常用している人が、前の晩だけ自己判断で抜くのは逆です。抜くのではなく、飲んでいる事実のほうを申告してください。
- 問診票に書く一文を、前日のうちに決めておく(1回/紙かスマホのメモに1行)。当日の受付でゼロから考えると、恥ずかしさのほうが勝って、いびきの欄に「特になし」と書きたくなります。前の晩に決めてしまえば、当日は写すだけです。文面は、ひとつ前の節に置いた一文をそのまま写せば足ります。注意:診断名を書こうとしないこと。言われた事実と頻度だけで通ります。うまい言い方を探し始めると、書かない側に転びます。
- 当日の朝、指先を空けておく(1回/両手の人差し指と中指)。パルスオキシメーターは、指先に光を通してその変化を読む器械だとされています。濃い色のマニキュアやジェルネイルが乗っていると読みにくくなることがあるので、前日か当日の朝に落としておきます。指先が冷えていても同じで、待合ではポケットや上着で手を温めておくほうが無難です。注意:付けてもらったあとに指を強く握り込んだり、その手をしきりに動かしたりしないこと。数字が暴れると、見ている側の手間が増えます。
3つとも、恥ずかしさを乗り越える種類のものではありません。前の晩と当日の朝に、事務として片づけられる作業です。当日だけ喉を広げる方法はないぶん、こういう手のほうが実際に効きます。
\寝ている自分は変えられない。起きている自分は変えられる/
鎮静中のいびきは、あなたの努力不足ではありません。ただ、普段の気道が狭いなら、そこは起きているあいだに手を入れられます。気道力メソッドには、原因タイプの見分け方と、1日3分から始められる26のセルフケアが入っています。私自身が142点から立て直すために使っているものと同じ中身です。
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よくある疑問
鎮静中に、寝言や変なことを言ってしまわないか心配です
これも、私が検査のあとで検索した口です。一般向けの説明を読むかぎり、鎮静の深さによっては呼びかけに返事をしたり、うめくような声が出たりすることはあるとされています。ただ、意識のレベルが下がっている状態なので、筋の通った長い話をする形にはなりにくい、とも説明されています。
そして扱いは、いびきとまったく同じです。スタッフにとって、声が出るかどうかは鎮静の深さを測るための情報であって、内容を鑑賞しているわけではありません。呼びかけへの反応があるかどうかは、そもそも見ておくべき項目のひとつです。
検査のあいだのことを何も覚えていないのが、かえって不安です
鎮静に使われる薬には、その時間のできごとが記憶に残りにくくなる作用があるとされています。覚えていないのは異常ではなく、想定された効き方のほうです。私も、検査室から回復のベッドまで自分がどうやって移動したのか、まったく覚えていません。
厄介なのは、記憶の空白を不安が埋めてしまうことです。空白そのものは何も語らないのに、人はそこへ「たぶんひどい音だった」「何か口走ったかもしれない」と自分で書き込みます。検査後のあの気まずさの何割かは、実際に起きたことではなく、この書き込みのほうだと私は思っています。
気になるなら、聞いてしまうのがいちばん早いです。検査中に確認された呼吸や酸素の状態は、記録として扱われるのが一般的だとされています。次の受診のときに「前回、鎮静中の呼吸はどうでしたか」と一言。恥ずかしい質問ではなく、まっとうな確認です。
いびきをかくと、検査は中断されますか
判断は医療者側にあるので、患者側で言い切れることではありません。ただ、一般に説明されているのは、まず鎮静剤の量の調整や酸素の追加、顎の位置を変えるといった対応がとられるということです。いきなり中止という話ではなく、段階があります。中断されるかどうかを心配するより、事前に情報を渡しておくほうが、打てる手が増えます。
いびきがあると伝えたら、鎮静を断られませんか
一律に断られるわけではない、と説明している医療機関が多いようです。ただし重い無呼吸があると分かっている場合は、鎮静を控えて別の方法を提案されることもあるとされています。いずれにしても、それは伝えたから起きる不利益ではなく、安全のための選択です。伝えずに受けて何かが起きるほうが、割に合いません。
結局、恥ずかしがらなくていいのですか
恥ずかしいと感じること自体は止められません。感情はそういうものです。ただ、その感情を「自分の体はだらしない」という結論に接続しないでください。接続するなら、こちらです。ゆるめば気道が狭くなる体だと分かった。だから起きているあいだに、少しだけ手を入れておく。恥は、そこで使い切ってしまえばいい燃料だと思っています。
