睡眠の質といびき|「かいて深く眠れている」は逆です

いびきをかいた翌朝ほど、ぐっすり眠れた気がする。私は長いあいだ、そう思い込んでいました。
先に結論を書きます。それは逆です。音が鳴っている夜、体は眠りの深いところまで下りきれていません。なぜ長さは足りても深さだけが削られるのか、この記事ではその仕組みだけを順番に並べます。
この記事の目次
「かいて深く眠れている」が、いちばんの錯覚だった
いびきと睡眠の質の話をするとき、最初に片づけておきたい思い込みがあります。いびきをかいているのは、深く眠れている証拠だという考え方です。私はこれを、疑うことすらせずに何年も持っていました。むしろ、音が大きかった翌朝ほど、よく寝たと感じていたくらいです。
この感覚には、それらしい根拠まで用意されていました。浅い眠りのときは物音で目が覚める。ぐっすり眠っているときは、多少のことでは起きない。だから、大きな音を立てても起きないほど深く眠っているなら、いびきは熟睡のしるしのはずだ。理屈としては通っているように見えます。私はこの理屈で、自分を長く安心させてきました。

ずれているのは、原因と結果の向きです。深く眠っているからいびきをかくのではありません。順番は逆で、眠って喉まわりの力が抜けたから、気道が狭くなって音が鳴る。力が抜けること自体は深い眠りの入口で起きますが、そこで気道が塞がりかけると、体は深いところへ下りきる前に引き戻されます。音は、深く眠れた結果ではなく、深く眠ろうとして邪魔された過程で出ている、というのが私の今の理解です。
私は医者ではありません。いびきの当事者です。だから診断や治療の話はしませんし、ここに書くのは仕組みの並べ方までです。ただ、この一点、いびきは熟睡のしるしではないという向きの取り違えだけは、自分がさんざん間違えたので、最初にはっきり置いておきたいと思いました。
この記事でやりたいのは、いびきをかいた夜の眠りの中身を開けてみることです。眠りには構造があって、その構造のどこがいびきに切られているのかが分かると、なぜ長く寝ても眠いのかまで一本の線でつながります。まず、その構造から始めます。
眠りは、浅い底と深い底をくり返している
眠りは、朝まで同じ濃さで続いているわけではありません。私はずっと、寝るというのは電気を消すみたいに一段で落ちて、朝に一段で戻るものだと思っていました。実際には、一晩のあいだに浅いところと深いところを何度も行き来しているとされています。
ざっくり分けると、うとうとした入口の浅い段階、体の力が抜けていく段階、そしていちばん深い段階があり、そこを抜けると今度は夢を見やすい段階が来ます。この浅いから深い、そして夢の段階までの一巡りが、ひと晩に何回かくり返される。これが眠りの大まかな作りだと、私が調べた範囲では説明されています。
深いところは、まとまった連続時間でしか作れない
ここがこの記事の背骨です。眠りの深い段階は、邪魔されない連続した時間があって初めて成立します。うとうとから始まって、少しずつ力が抜けて、それから深い底に着く。エレベーターで地下まで下りるのに近くて、途中の階を飛ばしていきなり最下階には着けません。下り始めてから底に着くまでには、それなりのひと続きの時間が要ります。

だから、下りている途中で一度上に引き戻されると、次はまた入口からやり直しになります。もう一度うとうとの段階から下り直して、途中まで来て、また引き戻される。これをくり返すと、床にいた時間はたっぷりあるのに、いちばん深い底に滞在できた合計時間だけが短くなります。時間は使っているのに、深さが積み上がらない。この形が、いびきと睡眠の質を結ぶ入口になります。
深い段階が削られると、何が変わるのか
いちばん深い段階が体にとって何をしているのかまで、私は専門的には説明できません。ただ、一般に眠りの深い段階は体の回復に関わるとされていて、ここが足りないと、時間のわりに休めた感じが薄くなると言われています。私自身の実感で言えば、長く横になっていた朝でも、頭の芯にうっすら重さが残っていて、その重さが一日ついてくる感じでした。
ここまでが、いびきを外した眠りの構造の話です。浅いと深いをくり返し、深いところは連続した時間でしか作れない。この土台を置いたうえで、いびきがどこに手をかけているのかに進みます。
いびきは、その深い底を何度も切り上げている
前の節で、深い底に着くには途中で引き戻されないひと続きの時間が要る、と書きました。いびきをかいている夜に起きているのは、まさにその引き戻しです。音が鳴っているあいだ、体は下りきる手前で何度も上へ戻されています。
気道が狭くなると、体は眠りを浅くして開け直す
眠って喉まわりの力が抜けると、気道は狭くなります。狭いところを空気が無理に通るので、まわりのやわらかい組織が震えて音になる。ここまではいびき全般の話です。問題は、狭いまま呼吸を続けるのに余分な力が要ることです。体はその負荷を感じ取ると、いったん眠りを浅いほうへ引き上げて、ゆるんでいた喉の筋肉に力を入れ直し、気道を開き直します。

この引き上げ自体は、体を守るための働きです。気道を開き直さないと呼吸が続かないのだから、浅くしてでも開ける必要がある。困るのは、この引き上げが深い底へ下りようとするたびに起きることです。深く眠ろうとして力が抜ける、力が抜けると気道が狭くなる、狭くなると引き戻される。深さを増やそうとする動きが、そのまま引き戻しの引き金を引いてしまう。ここに、いびきと睡眠の質のいちばん意地の悪いところがあると私は思っています。
切られていることに、本人は気づけない
この引き上げのやっかいさは、記憶に残らないことです。深いところへ下りきる前に浅くなって、また下り始める。この上下は、はっきり目が覚めるところまでは届かないことが多く、朝になると本人の実感は一度も起きなかったになります。私はまさにそうで、朝まで通しで眠ったつもりでいました。切られていた回数も、切られていたこと自体も、私の記憶には一つも残っていません。
だから、いびきをかいて深く眠れているという錯覚は、なかなか崩れません。眠りを切られている場面を本人は見ていないのに、朝の実感だけは通しで眠ったことになっている。外から見れば大きな音を立てて起きないので、深く眠っているように見える。当人の実感も、外からの見え方も、両方とも深く眠れているほうを指すのに、体の中身だけが逆を向いている。この三者のずれが、思い込みを支えていたのだと思います。
いびきそのものがどこでどう鳴っているのか、鳴る場所の見取り図のほうはいびきの原因を全部並べた記事に置いてあります。この記事で追いかけているのは、鳴っている音ではなく、その音の裏で削られている眠りの深さのほうです。
\ 深さは、狙って取り戻せる /
深い底を切っている原因が鼻なのか喉なのか舌なのかで、手の入れ方は変わります。タイプ別に何をどう組むかは気道力メソッドにまとめました。この記事は仕組みまでで、順番は向こうに置いてあります。
教材の内容を見る※18歳未満は登録できません
だから「8時間寝ても眠い」が起きる
ここまでの話を一つの症状につなげます。8時間寝ても眠いという、あの感覚です。私はこれを長いこと、寝る時間が足りていないか、あるいは年のせいだと考えていました。どちらも外していたと今は思っています。
眠りの深さが夜のあいだに何度も切られていると、床にいた時間がいくら長くても、深い底に滞在できた合計は短くなります。つまり、睡眠の長さと、睡眠から受け取れる回復量が、切り離されるわけです。8時間という数字は床にいた長さであって、休めた深さではない。長さのほうを見て安心していると、いつまでも噛み合いません。逆に、鳴っている音そのものが一晩じゅう続いていた長さのほうに怯えているなら、その数字は重症度ではなく頻度だという受け止め方をいびきが一晩じゅう続くときの考え方に分けてあるので、先にそちらで不安を下ろしてください。

私が取り違えていたのは、まさにここでした。眠いのは時間が足りないからだと思っていたので、対策はいつも早く寝る、長く寝るの方向へ向かいました。休日にまとめて寝る。平日も無理に就寝を早める。それでも月曜の朝の重さが変わらないので、最後は年齢のせいにして考えるのをやめる。長さの引き出しばかり開けて、深さという引き出しがあることに気づいていませんでした。
私のケース:8時間寝ても眠い理由を「年」で片づけていたが、録音の6時間が答えだった
私は四十五歳、いびきの当事者です。医療者ではないので、診断の話はしません。ここに書けるのは、自分が何を勘違いしていたかだけです。
その頃の私は、寝る時間だけは足りていました。夜は早めに布団に入り、朝はアラームで起きる。数えれば八時間近く横になっている日もありました。それなのに、昼を過ぎると頭に膜が張ったようになる。私はこれを、四十を過ぎたからだ、で片づけていました。同年代に言えば全員が同意してくれるので、それ以上考えずに済みます。
その説明が崩れたのは、初めていびきを計測して142点という数字が出た夜でした。数字そのものより、残っていた録音を再生したときのほうが効きました。低く長く引きずる音が、途切れずに延々と続いていたのです。早送りで確かめると、鳴っていない静かな時間のほうが短いくらいで、ひと晩の大半、六時間ほどにわたって音が乗り続けていました。呼吸が止まる無音は入っていませんでしたが、通しで静かな時間がほとんどない。
そのとき、8時間寝ても眠い理由がやっとつながりました。私は八時間横になっていたのではなく、六時間ぶん喉を鳴らしながら横になっていたわけです。深い底へ下りようとするたびに引き戻されていたのなら、時間はあっても深さが積み上がらないのは当たり前でした。眠りの長さを疑うのはずっと前からやめられたのに、深さのほうを疑うのに、私はここまでかかりました。
この気づきのあとで一つ楽になったのは、眠いのは自分の心がけの問題ではないと分かったことです。気合が足りないから昼に落ちるのでも、根性がないから疲れが抜けないのでもない。夜のあいだに深さを削られていれば、昼の眠気は体の側の当然の反応です。日中の疲れや眠気を自分の弱さとして責めていた人ほど、ここは一度切り離して考えたほうがいいと思います。
長さではなく、深さのほうを見積もる
いびきが深さを削っているなら、こちらが見るべきは長さではなく深さです。とはいえ深さは、記憶にも残らず、目盛りもありません。そこで私が教材で最初にやったのは、深さそのものを測ろうとするのではなく、長さと体感のズレのほうを可視化するやり方でした。ズレが見えれば、削られているという事実だけは自分の手元で確かめられます。
長さをそろえて、二日を比べる(週1回・5分)
この記事が持っている手順は、これ一つです。他の記事の体操ではなく、深さを見積もるためのものです。
- 毎朝、床にいた時間だけメモする。就床と起床の時刻から、横になっていた長さを出します。分単位はいりません。30分刻みで十分です。
- 床にいた時間がほぼ同じだった二日を選んで、並べます。たとえば、どちらも七時間だった二日です。長さをそろえるのがこの手順の肝です。
- その二日の、目覚めた瞬間の回復感を三段階で比べます。なし、少し、はっきり、の三つだけ。起き上がる前、スマホを見る前の、最初の数十秒で採ります。
- 同じ長さなのに回復感に差があれば、その差が深さの差です。長さが同じで結果が違うなら、動いていたのは深さのほうしかありません。
回数の目安は、週に一回。同じ長さの二日がそろったときだけで、毎日はやりません。一回にかける時間も、朝のメモと合わせて五分あれば足ります。
注意が二つあります。ひとつ、長さを変えて比べないこと。五時間の日と八時間の日を比べると、差が深さから来たのか長さから来たのか分からなくなります。長さをそろえるからこそ、残った差が深さの差だと言えます。前に挙げた原因の記事にも書きましたが、変数を一つに絞らないと犯人当てが振り出しに戻ります。ふたつ、回復感を寝る前の期待で決めないこと。昨日は早く寝たから軽いはずだ、と先に思っていると、その通りに感じてしまいます。採るのは起きた瞬間の実感だけにして、前の晩の予想は持ち込まないでください。

私がこの比べ方をやって最初に分かったのは、長さと回復感がほとんど連動していないことでした。長く寝た日が軽いとはかぎらず、むしろ飲んだ翌朝は、どれだけ長く横になっても重い。長さの引き出しをいくら開けても届かなかった理由が、この一枚の紙で見えました。深さという別の引き出しが、たしかにあったわけです。
この手順で拾えるのは、あくまで長さと体感のズレまでです。音そのものを数字で追いたくなったら計測アプリを使うことになりますが、スコアの見方や、日ごとの上下ではなく七日平均で見るという判定の作法は、この記事の担当ではありません。私の実測の記録そのものは実測30日ログに置いてあります。
削られ方には、自分の手の外の領域がある
最後に、この記事の外側との境目を引いておきます。ここまでは、いびきが深さを削るという仕組みの話でした。ただ、深さの削られ方には、自宅の工夫で様子を見てよい範囲と、そうでない範囲があります。私は医者ではないので、線がどこにあるかまでしか書けません。
深さの削られ方が、手の外に出ているサイン
いびきの途中で音が止まり、しばらくしてから大きく吸い直す音が入る。これは気道が塞がって呼吸そのものが止まっている可能性のあるサインで、そこまで来ると、削られているのは深さだけの話ではなくなります。次のどれかに当てはまるなら、自宅で深さを見積もっている場合ではありません。
- 寝ているあいだに呼吸が止まっていると、家族に指摘されたことがある
- いびきが止まったあと、大きく息を吸い直す音がすると言われた
- 夜中に、息苦しさで目が覚めることがある
- 長く寝ても日中の眠気が強く、会議中や運転中にうとうとする
とくに、呼吸が止まっていると指摘されたことと、日中の強い眠気の二つがそろっている場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性を考える必要があるとされています。このときは、喉の体操を続けながら様子を見る順番ではありません。受診を先にしてください。私自身は録音を聞いた範囲で、呼吸が止まる無音は入っていませんでした。だから自宅でできる範囲を選べています。どの科へ行くか、どんな検査があるかはいびきは何科かにまとめてあるので、当てはまった方はそちらへ進んでください。
この記事の担当と、隣の記事の担当
ここで扱ったのは、いびきが睡眠の深さを削る仕組みと、長さと深さがずれる理由まででした。その削られが翌朝や日中にどんなサインで顔を出すのか、朝の状態と昼の状態をどう手がかりにするのかは、いびきで眠りが浅い記事のほうに整理してあります。仕組みはこの記事、出てくるサインは向こう、という分担です。日中の疲れや眠気を、いびきと結びつけて自覚するところから入りたい人は、その一歩手前の気づきの話も別に立ててあります。
私がこの一連で言いたかったことは、突き詰めれば一つです。いびきをかいて深く眠れている、という安心は、いちばん手放しにくいわりに、いちばん向きを間違えていました。音は深く眠れた結果ではなく、深く眠ろうとして削られている過程で出ている。ここを裏返せただけで、長さの引き出しばかり開けていた私の対策は、ようやく深さのほうを向きました。同じ長さの夜でも、深さが積み上がっているかどうかで、翌日は変わります。
