ストレスといびき・食いしばり|昼の張りが夜に押し上げるもの

朝、奥歯がだるい。同じ時期に、妻からはいびきを強く言われる。仕事が山になっていた週ほど、その二つが重なる。長いあいだ私は、これを別々の不調として眺めていました。
先に書きます。精神的なストレスは、食いしばりと浅い眠りの両方を通じて、いびきに乗ってきます。この記事では、その上流にある張りの経路だけを整理します。
この記事の目次
ストレスといびきが、同じ夜に出てくるわけ
つまり、歯のだるさは歯の話、いびきはいびきの話。あいだに線を引いたまま、どちらも「疲れているせいだろう」で片づけていたわけです。歯科で顎の力みを指摘されても、家で妻に音の大きさを言われても、その二つが同じ一晩の中で起きた出来事だとは考えませんでした。順番が入れ替わったのは、記録を時期ごとに並べ直してからです。忙しさの山と、顎と音の重なりが、同じ線の上に乗っていました。
もうひとつ、この記事の立ち位置も書いておきます。私は医者ではありません。四十五歳の、いびきの当事者です。診断や治療の話はしません。ここで並べるのは、精神的なストレスがどんな経路でいびきに乗ってくるのか、という筋道だけです。
いびきというのは、どこか一か所が悪いから鳴るのではありません。喉の細くなった場所へ、その夜ごとの条件がいくつか同時にそろって、はじめて音になります。ストレスは、その札の中でも少し変わった立ち位置にいます。ストレスそのものが直接のどを鳴らすわけではなく、ほかの札を裏から押し上げるような働き方をするからです。私が整理した範囲では、その押し上げ方は大きく二つに分かれます。
- 食いしばりの経路/張り詰めた気持ちが、眠っているあいだの顎の力みとして出てくる道
- 交感神経と浅い眠りの経路/気の張りが寝る時間まで残って、体がゆるみきらないまま朝を迎える道
この二つは、途中まで同じ場所から始まります。日中に張り詰めたものが、夜になっても抜けきらない。その一点が上流にあって、そこから顎のほうへ流れれば食いしばりになり、全身のほうへ残れば眠りの質に出る。だからストレスの話は、いびきの原因を一枚ずつ数える作業の、少し外側にある「押し上げる力」の話になります。
紛らわしいのは、寝不足との区別です。忙しい時期は、たいてい睡眠時間も削れています。ただ、寝不足で音が大きくなるのは眠りが深く落ちるからで、これはストレスとは別の札です。足りない夜が音を増やす仕組みは寝不足でいびきがひどくなる話に分けてあります。この記事で扱うのは、時間は足りているのに気持ちが張っている、という側だけです。

精神的ストレスが、眠る体にしていること
精神的なストレスがいびきに効くとされるのは、自律神経の張りが夜まで残るからだと説明されることが多いです。ここは私の領分ではない部分もあるので、私が調べた範囲で腑に落ちたところだけを、順に並べます。交感神経と副交感神経の切り替えそのものがどこで止まるのかという地図は、自律神経が乱れた夜、喉はどうなるのかに別立てで置いてあります。
1|気の張りが、寝る時間まで抜けない
日中、締め切りや気がかりが続くと、体は緊張の側に傾いたままになります。本来、夜が近づくにつれて体はゆるむ方向へ切り替わるとされていますが、張り詰めた状態が強いと、その切り替えが遅れる。布団に入っても頭の中で仕事が回り続けて、体だけ横になっているのに気持ちは日中のまま、という夜です。この「ゆるみきらなさ」が、いびきの土台にとっては都合の悪い方向に働きます。
2|ゆるみきらない体は、寝つきと眠りの形を変える
気が張ったまま眠りに入ると、寝つくまでに時間がかかったり、途中で目が覚めやすくなったりします。そして、ようやく深く落ちるときには、その反動で一気に落ちることがあります。深く落ちること自体は、いびきの側から見ると喉まわりの力が抜けて音が出やすくなる方向です。張って寝つけず、あとで反動で深く落ちる。この上下の大きさが、静かな夜と大きな夜の差になって出てきます。

3|浅い息と、口で吸う癖
緊張しているとき、人の息は浅く速くなりがちだとされています。浅い息が続くと、鼻でていねいに吸うより、口を開けて量を稼ぐほうへ流れやすい。口が開けば顎の位置が後ろへ落ち、その顎にぶら下がった舌の根もとも、つられて喉の奥のほうへ下がります。ストレスの夜に音が変わる人の一部は、この口呼吸への傾きが乗っている可能性があります。
三つ並べてみると、ストレスは新しい原因を持ち込んでいるわけではないと分かります。もともとある狭まりや力の抜けやすさを、ゆるみきらなさと浅い息で押し上げているだけです。だから、ストレスが強い時期に音が跳ねても、体が壊れたわけではありません。押し上げている力が抜ければ、音は元の高さに戻ります。ここを分かっておくと、忙しい時期のいびきを自分の劣化として責めずに済みます。
食いしばりという出口と、いびきのつながり
もう一つの経路が、食いしばりです。張り詰めた気持ちが、眠っているあいだに顎の力みとして表に出ることがある、という道筋ですね。日中に気を張っていると、無意識のうちに歯を触れさせ続けている人がいて、その力みが夜まで持ち越されると説明されることがあります。
ここで、線を引いておきます。歯ぎしりや食いしばりそのものの背景、朝に出る顎のサイン、歯を守るナイトガードといびき用の装置の違いは、別記事の担当です。同じ夜に重なる意味と、朝の顎のだるさの扱い方はいびきと歯ぎしり・食いしばりの記事にまとめてあるので、装置や歯の話が気になる方はそちらへ進んでください。この記事が持っているのは、あくまでその手前にあるストレスという上流のほうです。
上流から見ると、食いしばりは結果の一つです。気の張りが顎へ流れれば食いしばりになり、全身に残れば浅い眠りになる。出口が違うだけで、水源は同じ「昼の張りが夜まで抜けない」です。だから、顎だけを装置で押さえても、水源のストレスが強いままなら、今度は別の出口から出てくることがあります。逆に言えば、上流のストレスを少し細くできれば、食いしばりと浅い眠りの両方が、いくらか一緒に引く可能性がある。私がこの記事でストレスの側から書いているのは、そのためです。
顎の力みが喉の側に影響する仕組みそのもの、そして自分が顎から詰まるタイプかどうかの見分け方は、あごが小さいといびきをかく理由に手順まで置いてあります。この記事では、顎を鏡で見て判定したり体操を並べたりはしません。私の領分は、顎に力が流れる前の、気持ちの張りのほうだからです。

仕事が詰まった時期、顎のだるさと記録が重なった
私のケース:仕事が詰まった時期、朝の奥歯のだるさといびきの記録が重なっていた
四十五歳、いびき持ちの一人です。医者ではないので、診断や治療に踏み込むつもりはありません。書けるのは、自分が何を見落としていたか、その一点だけです。
去年、仕事が一つの時期に固まって、頭の中がずっと締め切りで埋まっていた数週間がありました。帰りは遅く、布団に入っても案件のことが回り続けて、目だけ閉じているような夜が続いた。その時期、朝起きると決まって奥歯がだるく、こめかみのあたりが張っていました。私はそれを、パソコンの見すぎか、姿勢のせいだろうと考えていました。
ちょうど三十日ログをつけている最中だったので、あとから並べて見返しました。すると、奥歯のだるさを覚えた朝の前の晩は、いびきの記録がはっきり跳ねている夜と重なっていた。逆に、案件が一段落して気持ちが軽くなった週は、顎のだるさも減り、記録も落ち着いていました。同じ時期に、二つがそろって上下していたわけです。
これは私ひとりの、しかも数週間分の記録です。ストレスが原因だと証明するものではありません。ただ、それまで私は奥歯のだるさといびきを、まったくの別件として処理していました。初回の計測で142点を記録したときですら、その裏に仕事の張りがあるとは考えもしなかった。二つを同じ夜の出来事として並べたのは、記録を時期ごとに見返すようになってからです。
気づいてからは、責め方が変わりました。忙しい時期に音が大きいのは、私がたるんだからではなく、昼の張りが夜まで抜けていなかったからだ。そう思えると、自分を叱るかわりに、寝る前の張りを少しほどく側へ手が動くようになりました。

寝る前に、昼の張りをほどくひと手間
装置の話は歯科と医科の領分です。では、ストレスの側で自分の手元に残るものは何かというと、寝る前に、昼の張りを少しだけほどいてから横になることです。緊張のない生活を作るのは無理な相談なので、狙うのは生活の改造ではなく、就寝前のほんの数分だけです。
文章で「リラックスしましょう」と言われても、私は三日で止まりました。だから、書き方と手順を先に決めてしまうやり方に変えました。気道力メソッドの三十日記録用紙には、スコアの横に体調を一行書く欄があります。私はその手前に、就寝前のひと手間を足しました。手順にすると、こうなります。
- タイミングを固定する。布団に入る前、机に座っているうちにやります。横になってからでは、頭の中の反芻が始まってしまうからです。
- 紙を二つに分けて、書き出す。左に「明日やること」、右に「今日、気がかりだったこと」。頭の中で回しているものを、そのまま紙へ移すだけです。うまくまとめようとしないでください。箇条書きの断片で構いません。
- 仕事を考えるのは、紙を閉じたら終わり、と時刻で線を引く。「今日はここまで」と声に出して紙を裏返します。続きは明日、机で開く。布団は、考える場所ではないと体に教える作業です。
- 横になったら、吐く息を吸う息より少しだけ長くする。数回で十分です。呼吸法として深く追い込む必要はありません。ここでは息を長く吐くきっかけとして使うだけで、呼吸法そのものには立ち入りません。
- これを、忙しいと感じた日だけやる。毎日やろうとすると、それ自体が新しい義務になって張りを増やします。気が張っていた日の夜に限る、で十分です。
回数の目安:忙しかった日の夜だけ、机で三分ほど。注意を二つ書いておきます。ひとつ、紙に解決策まで書こうとしないこと。棚卸しの目的は、頭の中の反芻を外に出すことであって、その場で片づけることではありません。片づけようとすると、かえって回り始めます。ふたつ、これは眠るためのひと手間であって、いびきを消すための手順ではありません。ストレスは押し上げる力なので、抜ければ上乗せ分が引くだけです。土台の対策とは別立てにして、期待の大きさを取り違えないでください。

\ 張りをほどく夜を、記録と並べて置く /
気持ちの張りと、その夜のいびき。この二つを三十日並べて眺める形式は気道力メソッドにまとめてあります。五タイプの診断で自分がどこから詰まるかを絞ってから、必要なものだけを回す作りです。忙しい時期に足した一行が、あとで効いてきます。記録の残し方そのものは記録カテゴリにも置いてあります。
教材の内容を見る※18歳未満は登録できません
一時の張りと、待ってはいけないサイン
最後に、この記事が受け持つ範囲の縁を、はっきりさせておきます。張りが原因で大きくなるいびきは、多くの場合その場かぎりです。気を張っている時期に強まり、肩の荷が下りれば静かな側へ戻る。ですから、忙しい一週間の音の大きさだけを取り上げて、うろたえる必要はありません。ただ、その手前でひとつだけ、順番として先に確かめてほしいことがあります。
張りのせいで一時的に強まっているように見える裏側で、眠っているあいだの呼吸そのものが途切れている場合があります。下の二つのどちらかに心当たりがあるなら、気持ちが落ち着くのを待っている場合ではありません。
- 眠っている最中に息が止まっていた、と隣で寝ている人から言われた。いびきの音がふっと消え、間を置いてから大きく息を吸い直す音が挟まる、あの形です。
- 横になる時間は足りているのに、昼間の眠気が抜けない。打ち合わせの最中やハンドルを握っているときに、意識が持っていかれそうになる。それくらいの強さのものです。
この二つは、睡眠時無呼吸症候群で挙げられるサインです。厄介なのは、ストレスや疲れの不調と見分けがつきにくいところです。気を張っているから昼に眠いのだ、と本人は片づけているのに、ほんとうは夜のあいだに息が止まって眠りが刻まれていた、という筋もあり得ます。心当たりがあるなら、張りのせいだと決めて先延ばしにせず、まずは医療機関の戸を叩いてください。行き先の科や検査の中身はいびきは何科を受診するかに整理してあります。
くり返しになりますが、私は医療者ではありません。ここで手渡せるのは、精神的な張りが食いしばりと浅い眠りを通じていびきを裏から押す、という筋道と、横になる前に張りを少しゆるめるひと手間まで。息が止まっているかどうかは、気持ちの棚卸しでは判じられません。私の場合、録音で聞こえたのは低く引きずる音がずっと続くだけで、途中で音が切れて大きく吸い直す無音は挟まっていませんでした。だから、家でできる範囲を選んでいられるだけです。
この一連で伝えたかったのは、手をつける順番の話です。忙しい時期のいびきは、あなたが衰えた証拠ではなく、昼の張りが夜まで残った副産物です。だとすれば、向ける矛先は自分ではなく、押し上げている張りのほう。まずは横になる前の三分から、その一枚を細くしていってください。
